笑罪人 〜900ヒット御礼〜

 

「あははははは…あはは……………あはははっ!」

笑う女が一人いた。

女、とは言っても、身長もさほど高いわけでもなく、痩せっぽちで、その笑う声も幼さが翳り見えるように少しだけ高い。

どちらかと言えばまだ少女のような印象。

その少女が細い肩をけたけたと震わせながら笑っている。

真っ黒の短い散切りのショートヘアが揺れる。

頬にかかった毛先の向こうには白い肌が見え隠れし、小さな顔の表情まではよく見えない。

けれど吊り上った唇の端がほんの少しだけ見えた。

足元には何故か水滴が垂れ、既に小さな水溜りが出来上がっている。

手には小さな黒く四角い箱を握りしめ、視線はそこへ向かっているようだ。

少女は猶も笑っていた。小さな肩をけたけたと揺らし。笑った。

「あっはははは………あはは……………」

握りしめた黒い箱が手から滑り落ち、小さな水溜まりの中へ、崩れ落ちるようにぽちゃっと小さな音を立てて落下した。

それでも彼女は笑っていた。

 

 

 

「―――――く、おい、陸!」

霞んだ視界の何処かあらぬ方向から呼ぶ声がして目を覚ました。

「おい!起きろ陸。」

薄くぼやけた視界が次第に輪郭を描き、鮮やかに色味を増す。

そうして一番初めに見えたものは相棒の姿だった。

「…ん、ああ…幸宏か。」

「ああ、じゃねぇよお前。ここで寝るんじゃねぇよ。」

幸宏という名の相棒に無理矢理起こされ、陸と呼ばれた少年が眠っていたソファから気怠そうに上体を起こした。

「…何だよ煩ぇな………。」

彼らが話をしている場所は、単なる休息用に設けられた部屋などとは訳が違った。

「いくらソファが上等だからってここでぐっすり寝てんじゃねぇよ。」

「場所的に安全性が高いから安心だろ。」

「そんなに寝たきゃ家で寝ろ。」

「じゃあ俺、帰らせてもらうわ。」

「まっ…待て待て!仕事中だ、帰られちゃ困る!!」

「じゃあ文句言うな。」

「………ハイ;」

自分より幾分年上の相手を言い負かした彼は、一度上げた腰をやれやれと再ソファに沈めた。

「そもそも俺がこんなに疲れてるのもお前のせいなんだからな。」

「………スンマセン;」

陸が詰るように相棒を見やると、一人のスーツに身を包んだ、厳かな格好の男が扉をノックし

「失礼します。」

と一例をして入ってきた。

「ああ、来たぞ。陸、追加の資料だ。」

 

スーツの男を視線で見送ると、二人は与えられた資料に目を通した。

『都内連続爆破事件、新たなる事件発生。』

印刷したてと思しきプリントは生暖かく、文字が黒光りしている。

「…またか。」

陸はふぅ、と小さなため息をつき、内容に目を通す。

都内連続爆破事件とは、現在世間を騒がせている新たに発生した事件だ。

人通りの多い繁華街やオフィス街を中心に、とにかく『人間の集まる地域』で手動型小型爆弾が無数に仕掛けられ

多くの人間を無差別に巻き込み、爆破し、破壊し、怪我―――――酷い場合は死亡事件にまで発展する。

「そう、まただ。…一刻を争うな。」幸宏が呟く。

 

彼らがいる場所は、警視庁捜査一課本部。しかし彼らは警察官などと言う仕事には一切就いていない。

それでも事件を追う彼らは、警察と連動しながら警察とは独立し、独自の方法で犯人を追い詰める。

ある程度公に認められた賞金稼ぎ、そんな所であろうか。

主に彼らの仕事は、とある警察官の下に付き、その警察官から捜査依頼が出され、

彼らと主に事件の捜査に当たることが殆どだった。

だから警察官ではないけれども、本物の警察官にしてみれば『私服警官』位の認識しかないのだろう。

しかし適当な彼らがそんなことは気にはしないから、やれと言われれば職業欄にも『警察官』と書きかねない。

 

「とりあえず、お前が寝ている間に犯人像の手がかりは掴めたそうだ。」幸宏が真面目な顔で仕事の話題を始める。

「へぇ…どんな?」

「意外な話だがな、犯人は―――女。…しかも中高生くらいの少女らしい。」

そう言うと、幸宏は目撃された犯人像の顔写真を印刷した別の資料を陸に手渡した。

受け取り、資料を一目見ただけで、陸は絶句した。

(この女――――――――――――!!?)

写真に写っていたのは、まだ幼さの残る、痩せっぽちの、散切りショートカットの少女だった。

陸はこの少女を見たことがあった。それは現実世界ではない。

つい今し方の、夢、の中でだ。

その夢の中では彼女の後姿しか見えなかったが、それでも充分似ていると思える程だった。

小さな肩の痩せ具合、無造作な髪型、その容姿から漂う雰囲気…全てがリンクした。

唯一つだけ違ったことは、写真の中の少女は笑っていなかった、それだけだ。

 

夢の中で見た少女のせせら笑う声が今にも蘇るような感覚に襲われる。

「………どうした陸?なんかあんのか?」

珍しく心配そうな表情を浮かべた幸宏が陸の表情を覗き込んだ。

「いや……、なんでもねぇ。」

まさか。こいつが俺の夢に出てきたからって何の関係がある。

そう思い直し、陸は思考を無理矢理逸らした。

「それにしても腹減ったな。」

「ああそうだな、もう昼か。」

再び、コンコンと扉を叩く音が響いた。先ほどの男性の時よりも音が弱々しく優しく響いた。

「はい、どうぞ。」幸宏が答えると安心したようにガチャっと重い扉が開き、一人の少女が顔を覗かせた。

少し青みがかった黒、と言うよりも藍の長い真っ直ぐの髪が豊かな光沢を放つその少女は、

見るもの全てを魅了する、天然にして極上の美貌の持ち主だ。

しかしその華奢な体や白い肌や、深く澄んだ優しい瞳からは初々しい素朴ささえ伺える。

「―――茜!」

それは陸の大切な女性(ひと)だった。

 

陸はその茜という少女を連れ、一階の食堂にあるテラスへやってきた。

茜は昼食の差し入れを持って来てくれたらしい。

折角だから一緒に食べよう、と二人で日当たりの良い此処へやってきた。

『都内連続爆破事件』。そのような重大な事件が多発している中、警察官は悠長に食事を採ることもままならぬのか、食堂は比較的空いていた。

本物の警察官で無いから陸たちはこのように悠長に構えていてもさほど問題は無いわけだが。

とは言うものの、応援を依頼されればすぐにでも現場に駆けつけなければならないから実際はこんなに悠長にしている場合でもない。

「のんびりしてて大丈夫?」と、茜にまで尋ねられる始末。しかし陸はそれが面倒臭いのか、

「大丈夫だろ。」とあっさり答える。

テラスの円形のテーブルに、茜は手に持っていたバスケットからサンドイッチの入ったケースと、

甘い絞りたてのジュースが入ったステンレスポットを取り出す。

「いただきます。」

同時に言うと、陸は茜がこしらえたらしいサンドイッチを一枚とって齧る。

茜はコップにジュースを注ぐと、陸に手渡した。

「ありがとう。」

「うん。美味しい?」

「ああ、美味いよ。」

それからは食事を採りながら、他愛も無い世間話が続いた。

今まで幸宏相手に仕事の話しかしていなかった陸にとって、都合の良い休憩だった。暫く仕事の話題からは離れたい。

しかし、あろうことか、仕事の話題を茜から持ち出されてしまった。

「…で、今追ってる事件って、連続爆破事件だったっけ?」

ああ、またその名前か。と思いつつも、「そうだよ。」と簡単に答える。

「犯人が特定できたって、ニュースでも話題になってたよ。街中にもお巡りさんがいっぱいいたし…。」

「―――もうメディアに流れてんのか。早ぇな。」

「ねぇ…もしかしてとは思うんだけど………、陸君、犯人の顔写真とかもう見たよね?」

ここで突然茜が真剣な眼差しで陸に尋ねかけた。

「ああ、見たけど…なんで?」

「じゃあ合ってるかどうか聞いて欲しいんだけど…。

その犯人って、中学生か高校生位の女の子で、髪型はショートカットの、痩せてる子じゃない?」

その茜の言葉に、陸は絶句した。

 

食事が終ると、陸は相棒のいる控え室に茜を連れて帰った。

「おっかえりー…おお、茜ちゃん、まだいたのか。」

幸宏は一人部屋に残って、茜の差し入れを食べながら仕事の続きをしていたらしい。

サンドイッチケースの周りには資料が散在していた。

「幸宏、さっきの犯人の顔写真、あるか?」陸が単刀直入に尋ねる。

「ああ、あるが…何に使うんだ?」

「茜に見せてみようと思う。」

「はあぁ!!?」幸宏はよほど驚いたのか、素っ頓狂な声を上げた。

「馬鹿、陸、あれは外部への持ち出しは厳禁………」

「分かってるよ。でも茜は『知っている』んだから、問題は無い筈だ。」

「…知っている?」

幸宏はしぶしぶと例の資料を取り出し、茜に手渡した。

「どうだ、茜?」

「間違いない。この子だわ。」

写真を見て、茜は確信したようだ。

「おいおい、さっきから二人で何話てんの?お兄さんを仲間外れにしないでくれよ。」

話題についていけず、幸宏が寂しそうに話しかける。

「……こいつの姿を、茜がここに来る途中に見かけたらしいんだ。」

「は?」それだけの言葉で状況を飲み込める筈もない幸宏が疑問符携え聞き返す。それに今度は茜が答えた。

「私…この子のこと、ここに向かう途中に見かけたんです。それで、何か変だな、って感じがして…。

よく考えてみたら今陸君たちが追っている事件が連続爆破事件だったなって思い出して…。

その時、ピンと来たんですよ。もしかしたらこの子―――って。」

真剣な眼差しで犯人の顔写真を見つめながら話す。

「何で…君は見ただけで『犯人』だと分かるんだい?」

根拠は何処にも無いのに、と言いたげな表情で幸宏が尋ねる。

その問いには、陸が簡潔に一言だけ答えた。

「―――『茜』だから、じゃないのか?」

「………なるほどな。」

たったそれだけの返答が、答えとしては十分な意味合いを持っていた。

「それじゃあ茜ちゃん。質問攻めで悪いけど…今この子が何処にいるか、分かるかい?」

「そうですね…ちょっと待ってください。」

そういうと、茜は静かに瞳を閉じた。

 

「犯人追跡中の捜査官各位に告ぐ!全員急いで都立公園へ向かえ!!」

街は突如慌しくなった。一人の少女の言葉が、警察官の全権を担ってしまったのだ。

『犯人の少女は都立公園の方へ向かっていった。』

幸宏と陸も急いで都立公園へ駆けつけるよう、バイクを飛ばした。陸の後ろには茜も一緒に付いてきているらしい。

「本来2ケツは違反だがな…」

「この際仕方ねぇだろ!茜に一人でバイク運転しろとか言う訳にもいかねぇし。」

「なんならパトカーの一台くらいかっぱらって来りゃ良かったな。」

「このクソ忙しい時に迷惑な事は止めろ。」

陸の後ろで、茜は長い藍の髪を靡かせながら、必死に陸に捕まっていた。

「茜、大丈夫か?」心配した陸が尋ねる。

「うん、平気。」

「…落ちねぇように、しっかり捕まってろよ!」

二台のバイクが喧騒の中を疾走する。パトカーともすれ違う。サイレンは鳴らしていない。

これも作戦の一つらしい。犯人に感付かれないよう、サイレンは鳴らすな、と。

しかし通常の平和な世界では考えられない数のパトカーが都立公園に集合している。

陸は、そこが危険な場所であることを実感した。

(そんな場所に、茜を連れて行っても良いのだろうか………)

疑問と共に、何か後ろめたい気分に駆られたが、ここまで来てしまったからには後には引き返せないだろう。

もう一度、「茜、大丈夫か?」と尋ねる。

「大丈夫よ。」という返事と共に、茜は陸の腰に回していた腕に力を入れ、強く抱きしめた。

陸は一層早くバイクを飛ばした。

 

まさか次の事件がここで起ころうとは知らぬ一般客は、広い都立公園での休息の時を楽しんでいた。

時は既に夕方だろうか。空がやけに赤い日だった。

茜はバイクから降り立ち、公園を眺めた。

「間違いないわ。ここにいる………!」

今回陸たちに任された仕事は、文字通り『犯人の捕獲』であった。こういう時は大抵一番危険な仕事が回ってくる。

そういう役回りなのだから仕方ない事ではあるが。

しかし今回は茜が一緒であることが引っ掛かる。

危険な場所に連れて行くのは気が引けるが、茜がいなければ犯人の詳しい居場所を特定できず、仕事にならない。

しかしそんな陸の心配をよそに、

「こっちよ」と茜は指を差して歩き出した。二人はそれについていくしかない。

 

警察は隠密な行動を心掛けたつもりだった。しかし犯人は慎重に現場を見ているものである。

大人数での行動が仇となったのだろうか。

「何で………?なんでこんなにパトカーが来てるのよ…?」

爆弾は既に仕掛けてあった。もう爆破の準備は出来ている。

なのに…それなのに。予定外な事態が起こった。居場所の特定が早すぎる。

「――――――――――もういいよ!!」

 

陸達は、茜の犯人を感じる感覚だけを頼りに広い公園内を駆け回っていた。

「どうだ、茜?」「…近くにいるみたい。」

そういった直度、茜が大きく振り返り、突然叫んだ。

「爆発する――――――――っ!!」

「え…」

次の瞬間、公園の中心に聳え立つ、娯楽施設用に建設された大きなビルが、爆音と共に崩れ始めた!

「「きゃーっ!!」」

様々な場所で、各々の叫び声が響く。

ガシャガシャと先程までビルを成していたコンクリートの破片が、外で平和な時を過ごしていた人間めがけ次々と襲い掛かる。

茜は目を見張った。そのうちの一つ、大きな破片が自分目掛けて落下するのがはっきり見えるのに、体が動かない。

「―――――茜!!」

陸に抱きとめられ、体が弾き飛ばされ、二人は芝生の上に胴体から落下した。

「茜!大丈夫か!?」

陸が助けてくれなかったら、今頃は大丈夫なんかじゃなかっただろう。

二人は、背後に誰かがいるような気配がして振り返った。

 

そこには少女が一人、立っていた。

 

その少女は笑っていた。爆破の残骸を見つめ、「あはは…」と笑っていた。

奇妙な光景だった。なんせ、この状況で笑っている人間はその少女ただ一人だったのだから。

「消えてしまえばいい………みんな、消えてなくなってしまえば……………」

陸は茜の身体を支え立ち上がると、茜の前に一歩あゆみ出て、けたけたと笑う少女に対峙した。

少女は陸を見ながらも、猶も肩を揺らして笑っていた。

資料で見たとおりの少女だ。

―――いや、それ以上に。夢で見たとおりの少女だ。

「…連続爆破事件の真犯人で間違いないな。」

容赦ない言葉だった。

「…あなた、警察なの?」少女はけたけた笑いのまま尋ね返す。

「あなた達よね?私の計画を邪魔したの………」

「計画………?」

「そうよ……………。」

 

少女の両親は共働きだった。しかも揃って海外出張が多く、日本にいることは殆ど無かった。

保育園、小学校の頃。休日には、ゴールデンウィークには、夏休みには……………。

家族で旅行や行楽へ出かける友人達が羨ましかった。

何処かへ出かけようと約束しては、いつだって「仕事が入ったから」とその約束は取り消される。そんな子供時代。

今回の事件で少女が爆破させた場所は、全て両親と出かける筈だったのに夢で終ってしまった場所。

そんな場所に少女は一人で出掛けた。そして爆破と共に思い出まで消してしまったのだろうか。

小学校4年の頃だったと思う。揃って海外出張へ出掛けていた両親から国際電話が掛かってきた。

『今度の週末には帰れるから、3人で都立公園にハイキングに行こうか。』

電話口の父親がそう言っていた。

「本当?お父さん、絶対だよ!約束だよ!!」

―――しかし、その約束もついには果たされなかった。

仕事で、ではない。

海外出張の帰りの飛行機が墜落した。

両親は死んでしまった。

 

だから少女は、この場所も思い出と主に消し去ろうとした。

そして、思い出と主に自分も消えてなくなろうと思った。

 

「………爆弾はもう一個仕掛けてあるの。今私が立っている背後にね。」

少女の手に握られた、黒く小さな四角い箱。それを自分の目の前まで持ち上げて、少女はそれでも笑っていた。

やっと分かった。少女の微笑みは、悲しみの微笑みだった。

「ばっ―――――馬鹿なことは」

やめろ、と言葉より先に体が動いた。迷わず、爆破スイッチと思しき黒い箱が握られた少女の手首を掴んだ。

「なによ!やめて……」

「お前っ、こんなに多くの人間を道連れにする気か!!?」

「いいじゃない、もう…綺麗に消えさせてよ!!」

二人のもみ合いは、突然茜が発した言葉に遮られた。

「――――――――――友紀?」

その言葉に少女は反応した。

「なっ、何であなた私の名前を……………」

二人の動きが止まった。友紀と言うらしいその少女は呆然と茜を見つめる。

「友紀…ごめんね。今度もお出掛けできなくてごめんね…。」

そう言ったのは茜だったが、それは茜の言葉ではなかった。少女は初めはわけが分からぬまま聞いていたが、

「まさか…………………………お母さん?」

茜は………茜の姿を借りた何者かは、にっこりと、優しく微笑んだ。

少女の瞳からは涙がこぼれた。その涙が芝生を濡らし、小さな黒い箱を地に取り落とした。

 

「―――金山友紀、器物破損及び殺人罪、殺人未遂罪で現行犯逮捕する。」

少女はパトカーに乗せられて、警視庁へと連行された。

あれから少女は泣いていた。ずっとけたけたと笑っていた少女が泣いていた。

「まぁ…一件落着だな。」ため息混じりに陸が呟く。

爆破の影響で離れ離れになってしまっていた幸宏とも無事合流できた。

「そうだな。今回もお疲れさん、相棒。」

「成功報酬はたっぷり頂かないとな。」

「そうだな。茜ちゃんの分も。」

二人の会話を他所に、茜は少女の乗せられたパトカーの行く末を見送っていた。

「…なぁ、茜。」そんな茜に、陸が徐に尋ねかける。

「何であいつの名前が分かったんだ?」

陸にはそれが不思議だった。

「私の背後に、二つの影。」

「え?」

「…今はもういないけど。気付かなかった?私の背後に、ずっと二つの影が取り付いていたの。

それが初めは何なのか分からなかった。でもね、あの子の生涯を知ったとき、その影がはっきりと私の目に姿を成して現れたわ。」

茜は、今はもう遠くに見えるパトカーを見つめ、クスッと微笑んだ。

「………両親、か。」

きっと両親も少女に会いたかったのだ。だから導いてくれたのだろうか。

「あの子、可哀想な子だったんだね。」

茜にも、陸にも、実は既に両親はいない。茜に至っては本当の両親の顔さえ見たことがない。

 

都内の至る場所を派手に爆破させたお騒がせ少女の正体は、本当は寂しがり屋のちっぽけな少女だった。

幼少期に両親と十分なふれあいを持てず、満たされない愛情への不満を膨らませ、

それでもいつかはと信じていた両親に、満たされぬまま先立たれた、

たった一人の、心が満たされなかった少女だった。

彼女が欲したものは、本当は両親との行楽の時間なんかじゃなかった。

ただ、愛情が欲しかった。

それだけで良かった筈なのに。人の心はすれ違いやすいから。

それでも少女は知っているのだろうか?

 

「茜、俺たちも帰ろう。」

陸にヘルメットを手渡された茜は、もう一度、少女が向かった先へ振り向いた。

少女はこの道を歩んでいけるだろうか。きっとこの道は少女の将来なのだから。

少女は知っているのだろうか?

本当の両親の気持ち。真に人間を思う気持ちを。

少女の向かう道へ向かって、茜は最後に一言だけ呟いた。

 

『大丈夫だよ、親御さんは、死んでも貴方を愛してるから。』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………終ったーっ!!

SSのくせに何だか長くなってしまったこんな物語を最後まで読んで頂きありがとうございます。

900ヒットリクエスト、お題は『名探偵陸君』でした。

「名探偵」って言われたのに、なんもトリックとか解決してないじゃないか陸君…;

ぶっちゃけ、材料は全部出揃って、あとは捕まえるだけだし;

でもまぁこれが奴の本当の仕事内容なわけで(言い訳)

ええと、これ、徹夜で書きました。何か書いているうちに気分が乗ってきて、寝ることを忘れていました(爆)

ただし、深夜作業に付き、文章おかしな所が多々あるかもしれませんが、そんときゃ突っ込んで侍さん♪(ぇ)

本当に「名探偵」からは脱線しまくって、テーマは「親子愛」とか、そんな感じですね。

ただこのSSを見ているだけじゃ人間の命の方を軽視している風にも見えかねないので

そちらの方も本当はもっと言及したかったのですが、

SSでそこまでやろうと考えると、もう話の終止が着かなくなっちゃいそうだったので、

敢えて今回は「親子愛」の方に力を注がせて頂く事にしました。

え?注ぎきれてない?そこはご愛嬌で♪(駄目だろこの人…)

リクしてくださった蒸苔侍さまのみお持ち帰り可です。

それ以外でも、読まれた方は感想とか一言下さると嬉しいです。

それでは、最後までお付き合い頂きありがとうございましたvv


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