すごいよ 季滝さん!
美しい朝日が空を照らし、雀達が囀り出せば、
今日もいつもの平和な日常がやってくる・・筈である。
穏やかで爽やかな金曜日の朝の広い桜並木の歩道は、今日も
名門高校「ど真ん中高等学校」へ向かう生徒達でごった返している。
空気の中を泳いで、遅刻時刻寸前を知らせるチャイムが鳴り響く。
「♪ど・・まんな・・・かァァァァァ!!!急げこるァァァァァ!!!」
驚き慌てて、生徒達は一気にどやどや速度を速めて駆け出した。
其の中に、相変わらずゆったりと歩く生徒が一人居た。
「ぉ〜〜ぃ!季滝さぁぁあん!」
背後から飛んでくる声に反応して、其の少女はくるりと振り返った。
「・・あらららぁ、お早う双葉さんに留坂さん」
一気に季滝さんに追いついた二人の学生。
季滝さんのクラスメートこと親友の双葉と留坂だ。
「そんなにのんびり歩いてたら遅れるっての遅れるっての!」
「急がないとあの先生達恐いっての恐いっての!」
「二人とも、慌て過ぎだよ〜。何なのその口癖あっはっはァァ」
「そんなんでいいんかっっつのォォォ!!(ガビーン ←効果音)」
其の時、またまた背後から、今度は鋭い突風が吹いてきた。
「あ、ほらもう大丈夫だ。二人とも、捕まって!」
二人が季滝さんの両腕にしがみ付いた途端、びゅうと風が三人を煽る。
そして・・・!
ぶわぁぁぁ。風は、何と三人を空へと吹き飛ばした。
「ほぅらね、私この頃体重減ってきたから。便利便利★」
「ぎょぇぁぁぁぁぁ!!??ってか私ら二人分の体重は皆無かァァ!!??(ガビガビーン ←効果音)」
気流は、丁度ど真ん中高校へと流れていく。
かくして、何とか三人は恐怖の遅刻罰を受けずにすんだのだった・・。
(但し船酔い並の気分不良で保健室へ直行)
「おお、三人とも大丈夫だった?」
「お疲れ様ァーー」
「たららたったら〜〜〜」「もっきゅもきゅ★」
朝のホームルームをさぼって後教室に入って来た三人を迎えたのは、
同じくクラスメートの水瀬、雪月花、蒸苔侍だ。
「また白昼飛行なの、季滝さん?」
「え、何それ・・?」「てか知ってたの!?」
「うん、前水瀬さんに鳥渡交通局までって頼まれたんだ」
「交通手段かァァァ!?」
「たららったた〜〜」「もっきゅっきゅ★」
「・・・?そういえば・・」
ふと五人は不可解な唄と音が聞こえる蒸苔侍の方に眼を向けた。
彼女は此方に背を向けて何やら左右にゆらゆら揺れている。
「・・何してるの蒸苔?」
「あ、いや、別に早弁してるわけじゃないよ」
「云ってねェェェ!!」
「!?・・其れは・・」
蒸苔侍の前に回りこんだ五人が見たものは・・・。
「!!!!!」
其の手には、何やら大きなもこもこしたクリーム色の物体・・から
何と内側からひょこっと顔を出したじゃないか!
「ぎぇァァァァ!!???何じゃそれ・・・」
「めっ、メソ・・・!」
「!!??」
何やら言いかけた口を、慌てて季滝は手で覆った。一同、沈黙。
「・・何か知ってるんだね?季滝さん」
「知らない・・!知らないアルよ私レッドスネークカモンアルヨ」
「動揺しすぎじゃ其れァァァ(ガビャー−−ン ←効果音)!?」
「何なんだ其れ何なんだ其れ!?生き物!?」
謎の生き物は二本づつの手足、頭が一つ、一見もこもこの哺乳類に見える。
此方をくりっとした二つの黒い眼で見つめ、何とも可愛く「キュ〜ン」と鳴いた。
周囲の皆は、思わずあまりのいじらしさに心がどきりとする。
「ほぅら、触って御覧。心が落ち着くから・・サクサクとしてキュッのような・・」
「どうれどれ。・・・サクサク?あ!本当だ。・・いいな此れ・・」
「ど、どれどれどれ?おぉぉ!サクサクっとキュッ!!!うふふふふ・・・」
皆が何時の間にやら和やかな雰囲気に包まれている間、季滝さんは何故か警戒の糸を解かない。
「み、皆・・!心を許してはいけない・・!」
「え?如何したの季滝さん!?こんなに可愛いのに・・」
「もうど真ん中高校のマスコットにしちゃおうよ。一体何処にこの子居たの?」
「う〜ん、気付いたら背後に居たんだ・・」
「!!ほらやっぱり!」
一瞬未知のもこもこに緊張が走り、突如飛び上がって周囲にフーと威嚇した。
一同、更に沈黙。
「な・・何なの?ほら、おいでおいで・・」
「皆、手を出しちゃ駄目!!」
急に季滝さんはバッと手元に謎の印を組み、ぼそぼそと何かしら唱え始めた・・。
「ほんげにゅいぞ、げはみぁら、ちィぷぅさ・・・」
(一同:中国語・・・!?わかんないアルよ・・!!! ガビチョィィン ←効果音)
愕然として事の次第を眺めていた一同を他所に、一人と季滝さんの睨み合いは続く・・。
其れが暫く続き、遂に一時間目の先生が入って来た。
「おーい、皆席に着け・・て・・おや?何しとるんだ其処?」
教室の後ろ側の怪しい雰囲気に気付き、先生が思わず声をかけた途端、
季滝さんの一喝が響いた。
「猫熊!!!」(←中国語)
・・・パンダ・・・?どんな台詞さ其れ・・?
しかし、この意味深な言の葉が何かしら影響したらしい。急に、もこもこ生物はぶるぶる震え始めた。
「もきゅモキュゥゥゥァァェァ・・・・!!!」
「な、な、何だァァ!!??」
更に、其の生き物から眩い光が溢れ出し、皆思わず眼を瞑った。其の瞬間!!
「モォォォォ!!」
何処からともなく煙が流れ出し、視界は真っ白になる。
皆がげほげほ咳き込んでる間に、其の中からゆっくり生物は立ち上がった・・が。
・・・ん?何か、大きくなってない?
シルエットはまるで人其のものである。そして、不意に其れは季滝さん及び周り一同を見回し、
「モッキュ」
と満ち足りたように呟くと、窓をがらがらと開けてひょいっと空へ飛んでいった。
「・・今何て云ったのかな」
「OK牧場だって」
「嘘吐けェェェ!!!」
「よく見えなかったんだけど・・何があったの?」
「全く、几帳面だなぁ・・換気の為にわざわざ開けてくれたんだねぇ・・」
「いや絶対違うよ!!てか何したのさ季滝さん!?何先刻の!!??」
「この意味不明な演出の煙は何!?」
「何て云ってたの!?パンダって何なのさ!?パンダ!!」
「あの生き物何が目的だったの!?」
「・・・私が一つ云えることは・・・」
すっと季滝さんは立ち上がった。其の顔は爽やかな笑みでいっぱいだ。
「皆、何事も見かけに騙されちゃいけないよ?」
其の言葉は、全ての謎の答えの代表でもあるようであった・・
・・いや分かんねぇよ・・。
「ほら、皆授業が始まるよ!うふふ、国語だ・・・」
そして、何事もなく何時もの用に机を並べ直し、気を取り直して授業を始めた・・。
何があってもこの学校は予定通り行うくそ真面目な学校である。
この日の授業は「源氏物語」についてだった。皆で浮気はいかんよなぁと相槌を打ち合うものとなった。
かくして、今日もど真ん中高校・・いや世界は季滝さんの手によってなんとなく救われたらしい・・。
貴女何者季滝さん!?てかすごいよ季滝さん!!!
完
『白河夜舟の子守唄』様より、キリ番700ヒットが届きましたvv
リク内容は『凄いよ季滝さん』というタイトルでSS…という、何とも無謀な物でした;
こんな微妙なリクを、本当に消化して頂けるなんて思っていませんでした。
(じゃあするなよ;)
何だか私、物凄く気が触れている人物のようですね。
うふふ、ありがとうございますvv(嬉しいのかよ)
どうでもいいけど、最近『気が触れている』という言葉が大好きです。
それにしても凄いなぁ、この話の飛び様………!
蒸苔侍さんの、新たなる境地をまた一つ開発してしまったような気分です。
いや、最高だよこの話。(マジ)
個人的には最後の『浮気はいかんよなぁ』がかなりのツボでしたvv
だって、それまで源氏物語全く関係なかったのに、
突然『浮気はいかんよなぁ』って………(笑)
マジで、蒸苔侍さん、アナタ…とんでもないセンスを隠し持っていますよ!!
それでは。こんな妙ちくりんなリクを消化してくださってありがとうございましたvv