X-mas Eve

 

 

わたしの家は、寒い寒い北の国の、そのまたさらに北はずれ、小さな村に建っている。

 

今日はクリスマス・イブだから、たったひとりでお留守番。

 

ひとりぼっちじゃつまらないから、さっきジェシカに電話をしてみたけれど。

 

わたしはサーシャ。サム・ニコラス家の末娘。

 

「メリー・クリスマス!お茶くらいは用意してくれた?」

 

電話してから待つこと1分30秒。従姉妹のジェシカがやってきた。

 

なんてったって、ジェシカの家はお隣なんだ。

 

「メリー・クリスマス、ジェシカ。もちろん、紅茶はとっくに淹れてあるし、

 

ママがケーキを焼いててくれたわ」

 

20%増量のスナック菓子を抱えたジェシカに、テーブルの上を指差すと、

 

ジェシカは「やったね!」って笑ってあたしの隣の席に座る。

 

 

 

わたしがママお手製のブッシュ・ド・ノエルを切り分けてる間に、

 

ジェシカは手近の皿にスナック菓子をぶちまけて、一握り口に放ってから、首を傾げて見せた。

 

「ところでサーシャ。あんたソレ、どうしたの?」

 

わたしの頭上に乗っかった心配の種――赤い帽子を指差して。

 

「おじいちゃんの忘れ物なの」

 

やれやれ、とため息混じりに答えると、ジェシカが素っ頓狂な声を出した。

 

「えーっ うっそでしょ?おじいちゃんってば歳なのにぃ。外、雪やんでないんだよ?」

 

口にもってくはずだったフォークで、ジェシカが窓の方を差す。

 

昨日から降ってる雪は、街を真っ白に塗りたくっても満足してないみたい。

 

「大丈夫。たぶん取りに戻ってくるよ」

 

そう言って、ケーキを一口。持つべきものは料理上手のママだわ、やっぱり。

 

「ホントに?っていうかおじいちゃん、今年はドコに行ってんの?」

 

「去年と一緒。2つ隣のおっきな街よ。ホラ、おじいちゃんてばくじ運いいから」

 

「ジョン伯父さんとケイト伯母さんは?あ、今年からウィリーもだっけ」

 

「うん。パパとママはニュージーランド。ウィル兄さんはカナダですって。

 

見習い卒業記念に、マリーと2人乗りなのよ」

 

 

 

ニコラス一族には、奇妙な決まりがひとつある。

 

それもはもう、先祖代々続いてきた、由緒ある決まりなの。

 

どんな決まりかって?

 

それは、クリスマス・イブに出稼ぎに行くこと。

 

勤め先はくじ引きで決める、なんてこれまた奇妙なおまけつき。

 

実入りのよくない…むしろまったくないアルバイト。

 

16歳になったら見習い始めて、18歳から一人前。

 

それからこれは…ニコラス一家だけの秘密の決まり。

 

 

 

「へーぇ。ウィリーもやるわねぇ。マリーって、あのマリー・ローズ?

 

隣町一番の美人って噂の。」

 

「うん。ホントに綺麗だったのよ。ウィル兄さんってば命知らずね。

 

あ、そういえばミック叔父さんとカレン叔母さんは?」

 

「ウチのはフランスだってさ。ちなみにベスはイタリア、ジェイクはイギリス、

 

ヘレンはアメリカ行きだって。そーいや、リッキーはハワイだってね」

 

「うん。ウチは今年は南行きが多かったみたい。

 

マギー叔母さんとこは、アジア方面ばっかりですって。」

 

「ロイド伯父さんとこは…なんか見事にバラバラだったよ。

 

オーストラリアにスペイン。ノルウェー…」

 

「あー。じゃあサリーとジャックも呼べばよかった。今頃、ミシェルと三人で留守番じゃない?」

 

「えー?いいよ、あたし、赤ん坊の世話って苦手だもん」

 

 

 

ニコラス一族は大家族。パパは5人兄妹で、わたしの従兄妹はざっと20人はいる。

 

ロイド伯父さんのとこには子供が5人。エイミー伯母さんとこには6人で、ミック叔父さんのとこは4人。

 

マギー叔母さんのとこが4人。そしてわたしが3人兄妹。

 

はっきり言って、わたし、みんなの名前を覚えきってない。

 

母方の従兄妹なんて数えてられないからやめるけど。

 

 

 

「あーあ。」

 

不意に、ジェシカがため息ついた。

 

「どうかした?」

 

窓越しに降り続ける雪を見ながら、ジェシカはしんみり呟いた。

 

「イブにのんびりしてられるのも、今年が最後なんだよね」

 

そう、わたしとジェシカは15歳。

 

来年からは見習い開始で、おじいちゃんやパパや叔父さん達についてくの。

 

「ね、学校で進路希望の紙もらった?」

 

暖炉のお陰で、家の中はあったかい。

 

「うん。」

 

「なんて書く?」

 

「そりゃぁもちろん……」

 

「「ねぇ?」」

 

顏を見合わせると、わたし達はくすくす笑った。

 

 

 

「…それにしたって、おじいちゃん戻ってこないわね」

 

ジェシカが時計を見ながら言った。

 

切り分けたケーキはとっくに消えて、紅茶もすでに3杯目。

 

「うん…大丈夫かなぁ」

 

「まさか…忘れ物に気付かないくらいにボ……」

 

ジェシカがいい終わる直前に、窓の外から声が聞こえた。

 

「おーい、サーシャ。わしの帽子を知らんかね?」

 

優しくて大きい、おじいちゃんの声。

 

ジェシカが慌てて口元を抑えた。

 

安心してよ。今のは聞かなかったことにするから。

 

「ここにあるわよー」

 

返事をしながらドアをあけると、赤ずくめのおじいちゃん。

 

帽子を忘れちゃったせいで、耳まで真っ赤になってる。

 

「おぉ、寒い。まったく、帽子を忘れてしまうとは。わしもうっかり者じゃわぃ」

 

おじいちゃんは手袋のまま頭を掻いて、いつもの特等席に座った。

 

「そーだよおじいちゃん。よりにもよって、トレードマークを忘れるなんて!」

 

ジェシカが茶々を入れると、おじいちゃんは目を丸くした。

 

「おやジェシカ。来てたのか。おぉありがたい。」

 

ジェシカが紅茶を淹れ直してる間に、私はケーキを切って、おじいちゃんに差し出した。

 

「せっかくだから、一休みしたら?それでもちゃんと間に合うでしょ?」

 

「そりゃぁもちろんじゃよ!今夜中に終えるのがプロの心意気ってものなんじゃ」

 

にっこり笑顔の優しいおじいちゃんは、実はちょっぴり頑固な職人気質。

 

わたしとジェシカは目配せしてからちょっと笑った。

 

「ほっほっほ…来年からはお前さん達も見習いじゃなぁ。一人前になったなら、2人で仕事をすればよかろ。

 

こういう仕事は仲良し同士が一番じゃ」

 

にこにこ顔でわたし達を眺めると、ぺろりとケーキをたいらげて、ごくりと紅茶を飲み干して、

 

おじいちゃんはまた出かけて行った。

 

 

 

赤い服の後姿を見送ってから、わたし達は暖炉の前に座り込んだ。

 

「来年から、おそろいの服着れるね」

 

嬉しそうにジェシカが言う。

 

「うん。18歳になったら、一緒のそりで仕事できるね」

 

わたしもなんだか嬉しくなった。

 

「楽しみだなぁ」

 

「楽しみだねぇ」

 

おじいちゃん譲りのにこにこ顔で、わたし達は笑い合った。

 

 

 

窓の外には白い雪。窓の傍にはクリスマス・ツリー。暖炉の炎は赤い色。

 

明日になったら、みんなで雪だるまを作ろう。

 

そうそう、ウィル兄さんに美人のガールフレンドを紹介してもらわなきゃ。

 

友達になれたら素敵だもの。未来のお義姉さんかもしれないし。

 

 

 

進路希望の紙には、きっとジェシカと同じことを書く。

 

そしてそれは、パパや兄さん達ともおそろいで、おじいちゃんとも同じこと。

 

とびっきり綺麗な飾り文字で

 

『第一希望:サンタクロース』って、ね。

 

 

 

Merry ChristmasMy Dears!!

 

 

 

 

 

 

 

………はい、そんな訳で。

Undefineble World 』様のクリスマス企画のフリー小説を頂いてきました。

どうもありがとう留坂さんvv

 

素敵ファンタジーですね☆いいなー季滝子もこんなファンタジーなのかいてみたい。

ええ、いつか留坂さんを見習って素敵小説が書けるように頑張ります。

その前に、あの聡君たちの話を書き終われるよう頑張ります。

大学の友人達よ。あれ、リレー小説にしてくれ orz

 

留さん、アップが遅れてゴメンなさい;

時期はちょっと過ぎちゃいましたが、いつ読んでも十分面白いですよvv

Undefinable World』には、リンク集から飛べちゃいます。

素敵な詩や小説が盛りだくさんの素敵サイト様なので

是非覗いてみてください。

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